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2022年5月 3日 (火)

「戦争に負けて外交で勝つ」幣原の本当の”ねらい”

 では、幣原はこのことを予見できなかったのでしょうか。それとも、それは武力を放棄した日本の問題ではなく、その後に続かなかった世界の問題なのでしょうか。私はここに、幣原の老練な外交としての狡智が隠されているように思います。


 というのは、幣原は、マッカーサーに対して「日本をして自主的に行動させることが世界を救い・・・アメリカをも救う唯一つの道ではないか」と説き、日本の非武装を憲法に明記させました。それによって戦後の東西対立の冷戦構想の中で、日本軍がアメリカ軍の先兵として使われる危険性を無くし、この間の世界秩序維持のための「犠牲」をアメリカに負わせようとしました。しかし、これは絶対に口外できないことなので、それ故に、あくまで核の時代における非武装の理想論を説き続けたのです。


 だが、だからといって、幣原の理想とした世界政府の樹立、そこに軍事力を一元化する構想が、空想あるいは虚偽であったというわけではありません。本稿の初めに論じた通り、それは国連憲章にも謳われていることであって、何時のことになるのか分かりませんが、世界平和のために、軍事力を国際管理する組織が必要になることは間違いないと思います。


 つまり、幣原が考えたことは、核の時代において世界平和を実現するためには、軍事力を国際管理するしかない。そうした組織を樹立しない限り、人類は生き残れない。そのためには、各国が軍縮に努め、将来的には軍事力をその国際機関に一元化する必要がある。日本は率先してその模範を示す。それは狂人の仕業であるが、人類が生き残るための歴史的使命でもある、これが幣原の身命を賭した外交メッセージだったのです。


 これ、間違っていますか?いや、誰もどの国も反対できないと思います。しかし現実は、世界の軍縮は実現できませんでした。「核拡散防止条約」(NPT)やICBM等戦力兵器削減交渉、近年では「包括的核実験禁止条約」(CTBT)の発効などがありますが、ロシアが核をウクライナ侵略の正当化に使おうとしている現状、それを中国やインドがそれを支持している状況では、端的に言えば、人類が”愚かだ”ということです。


 従って、世界は幣原を責めることはできないと思います。幣原に言わせれば、「ローマ帝国などもそうであったが、何より記録的な世界政府を作った者は日本である。徳川家康が開いた三百年の単一政府がそれである。この例は平和を維持する唯一の手段が武力の統一であることを示している。」それができない責任は日本にはなく世界にある・・・ということになるでしょう。


 さて、そこで幣原はこうした状況をどこまで予測していたかと言うことですが、私は、彼の第一次世界大戦後の加藤高明内閣、第一次、第二次高槻礼次郎内閣の外務大臣として国際協調外交を推し進めた実績に照らして、当然、こうした事態が起こりうることを予測していたと思います。この点、マッカーサーの方が空想的だったのです。つまり、マッカ-サーは幣原にはめられたのです。


 マッカーサーは、北朝鮮の韓国侵略を端緒に朝鮮戦争が始まり、ダレスに日本軍の再軍備を迫られた時、幣原に対して”軍備放棄は100年早かったね”といい、幣原は苦笑いしていたといいます。しかし、時すでに遅しで、日本国憲法にそれが明記してある以上、日本の「再軍備」(自衛隊は「軍隊」ではない)は困難で、その結果、その後のベトナム戦争をはじめとする、東西のイデオロギー対決に起因する戦争に日本が巻き込まれることはなかったのです。

 

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