戦後77年、世界は日本にならって軍縮を実行したか?
以上、「平野文書」の一部を紹介しましたが、私は、幣原のこの段階での判断は正しかったと思っています。吉田茂もこれを承知しており、昭和天皇には幣原が報告し了承を得ています。ただし、手続き炊きには大問題で、それ故にマッカーサーの意向=命令と説明したのです。
だが、平野文書における幣原の説明にはいくつかの矛盾があります。一つは、「若し或る国が日本を侵略しようとする。そのことが世界の秩序を破壊する恐れがあるとすれば、・・・その第三国との特定の保護条約の有無にかかわらず、その第三国は当然日本の安全のために必要な努力をするだろう。要するにこれからは世界的視野に立った外交の力に依て我国の安全を護るべきで、だからこそ死中に活があるという訳だ」の部分です。
まさに、現在が「ロシアがウクライナを侵略し、そのことが世界の秩序を破壊する恐れがある」状態です。これに対して第三国がウクライナのために必要な支援をしていることは事実ですが、それは、ウクライナが戦う意思を持ち、必要な武器や核シェルタを準備し、食糧備蓄をし戦っているからです。
”市民に犠牲が出る前に降伏すべし”との意見もありますが、それが「世界の秩序を破壊する」ものであれば、誰かが戦わなくてはなりません。本来なら、国連の安全保障理事会が対応すべきですが、常任理事国である国が、核を恫喝に使って侵略行為そするような状態は、幣原も想定していなかったと思います。
幣原は、世界政府が樹立された場合、「世界の一員として将来世界警察への分担負担は当然負わなければならない。しかし強大な武力と対抗する陸海空軍というものは有害無益だ」と言っていますが、残念ながら、世界はその段階に達していません。科学技術の発達で武器の殺傷能力は飛躍的に高まっており、現状では、国連の「警察力」は各国の軍事力に依存している状態です。
国連憲章第42条は「第41条に定める措置(兵力を伴わない措置)では不充分であろうと認め、又は不充分なことが判明したと認めるときは、国際の平和及び安全の維持又は回復に必要な空軍、海軍又は陸軍の行動をとることができる。この行動は、国際連合加盟国の空軍、海軍又は陸軍による示威、封鎖その他の行動を含むことができる」となっています。
つまり、現在は世界政府ができる段階にはなく、それどころか、冒頭に紹介した国連憲章の「国際紛争の武力解決禁止条項」を無視した、むき出しの帝国主義に時代に逆戻りしかねない状態なのです。幣原は、こうした逆転現象が起こることを想定していなかったのでしょうか。本当に、日本が武力を放棄することで、世界が軍縮から世界政府樹立へ進んでいくと思っていたのでしょうか。
この疑問を解く鍵は、私は、幣原の「僕は我国の自衛は徹頭徹尾正義の力でなければならないと思う。その正義とは日本だけの主観的な独断ではなく・・・そうした与論が国際的に形成されるように必ずなるだろう。」という言葉にあるように思います。
つまり、これが、幣原の主張に論理的一貫性を持たせる条件であって、この条件が満たされなければ、世界政府の下での平和は訪れないと言うことです。実際、戦後77年、今日まで、日本国憲法第九条2項のように「戦力放棄」した国は、バチカンやリヒテンシュタインなど小国を除いて外になく、特に独裁国では軍事力の増強がつづいています。
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